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抗体の「質」と「量」

測るのが難しい抗体ですが、私たちで工夫した方法も含めてまとめました。


中和抗体測定を手軽にできないの?

感染リスクのために中和抗体の測定は一般的でないことに触れました。そこで、私たちは中和抗体評価法(CRNT法)を作りました。外側には新型コロナウイルスのスパイク蛋白ですが、中身は別のウイルスからなるシュードタイプウイルスを利用するものです。シュードは“似せた”という意味です。感染性が落ちているので、通常のバイオセーフティーレベル2(BSL2)の実験室で扱うことが可能となりました。

BSL3の環境では、重厚な着替えもいったりして長い作業は到底できませんが、BSL2になることで、例えば多数の人の血液を集めて一気に解析するということも現実的となります。


CRNT法でどうやって中和抗体を測るの?


シュードタイプウイルスとして作り出した測定用ウイルスと、ウイルスが感染することができる細胞と、さらに私たちの血液(とくに血清)を培養液という液体の中に一緒に入れておきます。

中和抗体がないと邪魔するものがないので、ウイルスは細胞に感染できます。感染した細胞の中には、ウイルスの遺伝子が送り込まれます。実は、この遺伝子は光るように仕込んであり、この光を測定することで感染したことがわかります。ところが、中和抗体があると感染を邪魔するので細胞に入るウイルス遺伝子が少なく、光が弱くなるのです。

もし、中和抗体がないときの光の強さが100で、血液を入れたときの光の強さが1であれば、99%阻害したという意味になります。


他に抗体を調べる方法はないの?


保険が効かない、研究用試薬としての市販の抗体検査に触れました(ここでの市販は自分で測れる意味でなく、検査室や検査会社が手に入れることができるという意味です)。品質の課題がありましたが、改良されてきたものも出てくるようになりました。これらでは中和抗体のような働きは知ることができませんが、あるかないかを知ることには利用できるかもしれません。

ウイルスのスパイク蛋白の構造を詳しくみると、RBDという、直接ACE2受容体にくっつく部分があります。感染のメカニズムから考えると、スパイク蛋白や、RBDに対する抗体であれば、感染しやすさの意味が反映されやすいということになります。


中和抗体と市販の抗体検査どっちがいいの?


中和抗体は働きですので抗体の「質」を表すのようなものと考えていいでしょう。一方、検査室で測れる市販の検査の中に、「」を測れるものが出てきました。先ほどのRBDに反応する抗RBD抗体検査にこの「量」を知れるものがあります。

中和抗体評価法は感染を邪魔する「働き」を知れるのですが、中和抗体を「量」としてとらえるのは少し難しいという側面があります。また、変異株のシュードタイプを作ることで、変異株への中和効果もわかってきます。一方、抗RBD抗体検査は血液に含まれる抗体の「量」がわかっても、中和能力のような働き・質はわかりません。

つまりそれぞれの長所と短所があって、両方を組み合わせることで、それぞれの検査法の特性や新型コロナウイルスへの免疫のできかたをより深く知ることができると考えられます。



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